2012年09月30日

カルノーの定理をざっくり考えなおした

熱力学第一法則は、気体の吸収する熱量を $Q$、内部エネルギーの変化を $\Delta U$、外にする仕事を $W$ とすると
$$
Q = \Delta U + W
$$
と表される。

熱力学第二法則には、いくつかの言い回しがあるが、ここでは以下のトムソンの原理を採用する。

トムソンの原理
一つの熱源から熱を受け取り、そのすべてを熱に変えるだけで、他に何の変化も残さないような過程は不可能である。

これらを基に以下のカルノーの定理をざっくり考えなおす。

カルノーの定理
一様な温度を持つ2つの熱源の間で働く可逆機関の効率は、可逆機関(作業物質)の種類によらず、熱源の温度のみで決定され、同じ2つの熱源の間で働く不可逆機関(一般の熱機関)の熱効率は可逆機関の効率以下である。

まずは、下の図のような理想気体を用いたカルノーサイクルを考える。

carnot_cycle_graph.png


このサイクルにおいて加熱されているは $D \rightarrow A$ のみ。
$D \rightarrow A$ は、等温過程だから内部エネルギーの変化はないので、熱力学第一法則は
$$
Q_{DA} = W_{DA}
$$
よって全加熱量 $Q_{+}$ は、
$$
Q_{+} = Q_{DA} = W_{DA} = \int_{V_D}^{V_A} p dV
$$
理想気体の状態方程式
$$
pV = nRT
$$
を使って
\begin{eqnarray*}
Q_{+} &=& nRT_{+} \int_{V_D}^{V_A} \frac{1}{V} dV\\
&=& nRT_{+} \left[ \log V\right]_{V_D}^{V_A}\\
&=& nRT_{+} \log \frac{V_A}{V_D}
\end{eqnarray*}
放熱されているのは、$B \rightarrow C$ の等温過程のみなので、全放熱量は同様に計算すれば、
\begin{eqnarray*}
Q_{-} &=& -Q_{BC} = -W_{BC}\\
&=& - \int_{V_B}^{V_C} p dV\\
&=& nRT_{-} \log \frac{V_B}{V_C}
\end{eqnarray*}
また、$A \rightarrow B$、$C \rightarrow D$ は、断熱過程であるからポアソンの公式が成り立つ
\begin{eqnarray*}
T_{+}V_A^{\gamma - 1} &=& T_{-}V_B^{\gamma - 1}\\
T_{+}V_D^{\gamma - 1} &=& T_{-}V_C^{\gamma - 1}
\end{eqnarray*}
よって辺々割れば
\begin{eqnarray*}
\left( \frac{V_A}{V_D} \right)^{\gamma - 1} &=& \left( \frac{V_B}{V_C} \right)^{\gamma - 1}\\
\frac{V_A}{V_D} &=& \frac{V_B}{V_C}
\end{eqnarray*}
よって
$$
Q_{-} = nRT_{-} \log \frac{V_A}{V_D}
$$
カルノーサイクルの熱効率は
\begin{eqnarray*}
\eta &=& \frac{Q_+ - Q_-}{Q_+} = 1 - \frac{Q_-}{Q_+}\\
&=& 1 - \frac{nRT_{-} \log \frac{V_A}{V_D}}{nRT_{+} \log \frac{V_A}{V_D}}\\
&=& 1 - \frac{T_-}{T_+}
\end{eqnarray*}
したがって、カルノーサイクルの熱効率は、熱源の温度のみで決まる。

次に、高温熱源 $T_+$ と低音熱源 $T_-$ の間で働く一般の熱機関と、可逆機関の例としてカルノーサイクルを考える。
まずは、一般の熱機関が熱源 $T_+$ から熱量 $q'_+$ を吸収し、熱源 $T_-$ に熱量 $q'_-$ を放出し、外に $w' = q'_+ - q'_-$ の仕事をしたとする(下図参照)。

g_cycle.png


この時、この機関の熱効率 $\eta'$ は、
$$
\eta' = 1 - \frac{q'_-}{q'_+}
$$
となる。

同じ熱源 $T_+$、$T_-$ の間で働くカルノーサイクル(可逆機関)を考える。
カルノーサイクルをうまく調節して熱源 $T_+$ から吸収する熱量が上記の一般熱源が吸収する熱量 $q'_+$ と同じになるようにする。熱源 $T_-$ に放出する熱量を $q_-$ とすると、外にする仕事は $w = q'_+ - q_-$ となる(下図参照)。

carnot_cycle.png


この時、この機関の熱効率 $\eta$ は、
$$
\eta = 1 - \frac{q_-}{q'_+}
$$
ここで、カルノーサイクルは可逆機関であるから、逆運転することが可能である。この場合、熱源 $T_-$ から熱量 $q_-$を吸収し、熱源 $T_+$ へ熱量 $q_+$ を放出し、外から$w = q_+ - q_-$の仕事をされることになる(下図参照)。

i_carnot_cycle.png


この逆運転しているカルノーサイクルと一般の熱機関を結合した熱機関を作ると以下の図のようになる。

c_cycles.png


この結合した熱機関が吸収した正味の総熱量 $Q_{in}$ は、
$$
Q_{in} = q'_+ - q'_- - q'_+ + q_- = q_- - q'_-
$$
となり、結合した熱機関は熱源 $T_-$ とのみ熱の移動があることになる。
また、この結合した熱機関が外にする仕事の総量 $W_{out}$ は、
$$
W_{out} = w' - w = q'_+ - q'_- - (q'_+ - q_-) = q_- - q'_- = Q_{in}
$$
ここで、
$$
W_{out} = q_- - q'_- > 0
$$
だとすれば
$$
Q_{in} > 0
$$
となり、一つの熱源 $T_-$ から熱を受け取り、その全てを外にする仕事に変換できることになる。これは熱力学第二法則(トムソンの原理)に反することになるからこれは許されない。
したがって、
$$
W_{out} = Q_{in} = q_- - q'_- \leq 0
$$
となる。
つまり
\begin{eqnarray*}
q'_- &\geq& q_-\\
\frac{q'_-}{q'_+} &\geq& \frac{q_-}{q'_+}\\
1 - \frac{q'_-}{q'_+} &\leq& 1 - \frac{q_-}{q'_+}\\
\eta' &\leq& \eta
\end{eqnarray*}
となり、一般の熱機関の熱効率はカルノーサイクルの熱効率以下となる。

次に一般の熱機関として任意の可逆機関を採用すると、2つの熱機関はどちらも可逆機関であるから、結合した機関を逆運転することができる。
こうすると、任意の可逆機関とカルノーサイクルの立場が入れ替わるので、
$$
\eta' \geq \eta
$$
つまり $\eta' \leq \eta$ かつ $\eta' \geq \eta$ であるから
$$
\eta' = \eta
$$
よって、任意の可逆機関の熱効率とカルノーサイクルの熱効率は等しい。
したがって、一般の熱機関は、可逆機関の熱効率以下である。

以上わかったことは
1. カルノーサイクルの熱効率は2つの熱源の温度のみで決まる。
2. 2つの熱源の間で働く任意の可逆機関の熱効率は、カルノーサイクルの熱効率と等しい。
3. 2つの熱源の間で働く一般の熱機関の熱効率は、同じ2つの熱源の間で働くカルノーサイクルの熱効率以下である。

まとめると
「2つの熱源の間で働く場合、可逆機関の熱効率は2つの熱源の温度のみで決まり、一般の熱機関の熱効率は任意の可逆機関の熱効率以下である。」となり、カルノーの定理が(ざっくり)証明される。
posted by とさかくん at 12:32| Comment(0) | も研
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